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   塗料の歴史  

日本古来から木を保護したり美観を高める方法として使われてきた柿渋や桐油など~ 塗料の変遷についてです。日本では古来から木を保護したり、美観を高める方法として使われてきたものに堅牢で美しい光沢を放つ漆や木材に浸透させ保護するために柿渋や桐油などに顔料が加えられて使われてきました。いわゆるペンキと呼ばれるものは幕末から明治時代にかけてイギリス産のものが輸入されるようになったと言われています。

近代に使われてきた塗料は、昭和に入って、石油化学技術の発達により開発された合成樹脂塗料で、この合成樹脂の開発も戦後にはアルキド樹脂、アクリル樹脂更にシリコンからフッ素と高耐久化の開発が進み、また、添加剤の発達により、特殊な機能に秀でた、防カビ塗料、抗菌塗料など、また質感やデザイン性の要望から意匠性重視の塗料が開発され、耐久性や機能、意匠性の豊かで漆や柿渋などと比較し格段に優れた塗料が登場するにつれこれらの塗料は姿を隠すことになります。


   塗装の必要性 

一般的な塗装の目的は、表面を固くしキズを防ぎ、汚れや水分がしみこまないようにし、空気を遮断し湿度変化による変形を少なくする等でしょう。これら全ての目的にかなう塗料はウレタン樹脂塗料に代表されるような合成樹脂塗料ですが、個人的にはウレタンニス等はどうも好きになれません。木の質感を損なうように感じるからです。塗装法としてオイルフィニッシュを選択することは塗膜の固さを追求せず、防水性や耐久性を犠牲にしても木の質感を大切にしたいということでしょう。また、乾性油が乾燥・樹脂化したものは固くならず、木の収縮によって塗膜にヒビがはいったりすることはありません。

最近ではさらに、天然素材指向という側面が加わり、もともと木の中に存在した蝋や油を使って塗装するということ自体に価値があるかもしれません。人間の肌から出る油にもっともちかいのが椿油だという。無塗装の木の椅子を何年も使い込むと人の肌から出る油によってすばらしい光沢が生まれてきます。人間と木の家具との時間的かかわりが光沢となってあらわれるのです。このように考えてくると、自ずから、塗料や、仕上げ法の選択をどうすべきかわかってくると思います。オイルフィニッシュだけをとってみても、油の選択、濡れた状態での研磨の是非、塗布回数、樹脂塗料との併用など、方向が決まってくるのではないでしょうか。


   主な植物油

1. 乾性油
木に浸透し、樹脂化することで木の補強、防水、対汚染性、美化をねらう。亜麻仁油:乾性油で最もよく使われる。乾燥が遅い。黄変する。煮亜麻仁油:重合度を高めただけではなく、金属酸化物の乾燥剤を含む。桐油:亜麻仁油よりもやや防水性がある。黄変も少ない。荏油:乾燥しやすく、多少ニスのような光沢がある。焼け色が激しい。

2. 半乾性油
乾性油に準じた目的で使用。 胡麻油:温度を上げて塗布しないとべたつく。 菜種油:胡麻油と同様、サラダオイルでも同じ。

3. 不乾性油
硬化しない油 。オリーブ油:湿った感じで無塗装に近いが、数年たつとあめ色に。 椿油:無塗装に近い仕上がり。

4. 亜麻仁油ベースのメーカー製オイル
成分は亜麻仁油、乾燥促進剤、アルキド等の樹脂、溶剤で乾性油の欠点を補う。 チークオイル:やや黄色みを帯びる。ワトコオイル:臭い少なく自然な感じで使いやすい。高価。

5. 桐油ベースのメーカー製オイル
重合させて乾燥を速くした桐油で、煮亜麻仁油と同じく乾燥剤と有機溶剤を含む。国内では発売されていない。(Polymerized Tung oil)

6. 樹脂分を比較的多く含むメーカー製オイル
デュポン、シーラーアンドフィニッシュ ワシン、木彫オイル(うすいウレタン樹脂塗料と考えるべき)

7. ワックスとの混合タイプ
主成分の亜麻仁油に、少量の蝋を溶かし、濃度を調整したもの。オスモカラー---ドイツ製の植物油が主成分で安全性を強調したタイプ。


   自然塗料の成分

・オイル系(浸透型) あまに油やひまわり油等、植物の種子などから採取される「天然油脂」を主成分とし、塗装された場合、木材に深く浸透し木材の質感を残し保護する。

・ワニス系(造膜型) セラックやダンマル等、樹木や昆虫等の「天然樹脂」を主成分とし、木材の調湿機能も残しながらも塗膜を造り素材を保護するため耐水性に強い。

・ワックス系(塗膜保護) 蜜ロウやカルバナロウ等のロウ類を主成分とします。単独のみで使用されることもありますが頻繁なメンテナンスが必要となるため、多くはオイルやワニス塗装後の塗膜の補助膜として使用される。

すべての塗料に言えますが、一概に「石油化学系塗料」よりも「自然塗料」が優れていたり、メーカーの自然塗料が優れているというような評価をすることはできず、一長一短があると言った方が適切です。大切なのはどの塗料がどのような部分(機能)において優れているかや、選択する際にその塗料のメリット、デメリット又は特徴を押さえておくことでしょう。さらに、一口に自然塗料といっても浸透型のオイル系や造膜型のワニス系などの仕上がり感やメンテナンスサイクルが異なり、体質によってアレルギー反応を起こすこともありますので、使用者に影響が無いことが重要です。


   塗料の成分と今後

塗料は対象物に対し塗装工程を経て硬化し塗膜となりますが、まず、この塗料の成分は対象物を保護する成分と、乾燥、効果するにあたって揮発する成分に分ける事が出来ます。 そして

1. 塗膜成分は保護機能を司る「合成樹脂」
2. 塗膜の色彩と艶を司る「顔料」
3. 塗料が均一な塗膜となる役割や塗膜に特別な機能を持たすための「添加剤」

の3つの成分から成り立ちます。 揮発する成分は、溶剤系塗料の場合はシンナーと呼ばれる有機溶剤がそれに当たり、水性反応型と料の場合は水になり樹脂を液状に溶かして塗れるようにする働きをします。 石油化学塗料は化学技術の発展により従来の天然塗料と比較し高耐久、色彩の豊かさなどをもたらし、多くの技術開発に貢献してきました。しかし、その代償として問題に上がってきたのが「地球温暖化」、「シックハウス症候群」や「化学物質過敏症」に代表される「環境汚染の問題」になります。

しかしながら現状の塗料によって他の多くの技術が支えられていることもあり、現段階では、普及した合成樹脂塗料自体が真っ向から否定する事は到底出来ません。今なすべき事は耐久性や美観を維持しながらも、揮発性有機化合物の低減はもとより、「ライフサイクルアセスメント」を基調にして、環境に対する負荷をできる限り軽減した塗料の開発といえるでしょう。又、その新しい塗料開発如何が今後の発展の鍵を握っているといっても過言ではないでしょう。

※LCA(ライフサイクルアセスメント) 環境保全と資源枯渇の回避を目指し、「持続可能な発展」を実現させるための評価手法の一つで、製品の原料調達、生産から消費、そして廃棄に至るすべての段階において、その製品が環境へ与える負荷を総合的に評価する手法のこと。製品の使用や廃棄に伴う有害物質の排出の有無、処理やリサイクルの容易性など、ある特定のプロセスだけにとどまらず、原料採取、製造、流通などの段階での環境への負荷も評価範囲に含まれます。


   オイルフィニッシュとは

広い意味では、単に油を木に塗るだけの仕上げ方法から、デンマーク仕上げと称する何回も乾性油を主成分とする塗料を塗り込んで乾燥させたものまで様々ですが、現在では、乾性油系のオイル仕上げ剤を充分に塗布し30分ぐらい放置した後、拭き取り乾燥させる手法をさすことが多いです。

オイルフィニッシュの利点
簡単で失敗が少ない。特別な用具不要。拭き取るのでホコリに神経質にならなくてもよい。皮膜を形成しないので自然な感じ。浸透するので、木質そのものを補強する。

オイルフィニッシュの欠点
無塗装に似た幾分頼りない仕上がり。乾燥が遅い。耐水性が悪い。黄色になったり、最後は黒くなったりする。一年に一度程度、オイルを再塗布したほうがよい。

このように一長一短がありますが、手軽に自然な仕上がりが失敗なくできるので、クラフトマンの多くがこの手法を愛好しています。尚、乾燥過程で熱が発生します。従って、オイルフィニッシュの拭き取りに使用した布は、焼却処分をするのが望ましいです。焼却しない場合でも、広げて一枚ずつバケツの縁にかけて乾燥してから捨てる、水に漬けておくなどの配慮が必要です。


    「楽器塗装法」としてのオイルフィニッシュ

一般の木材製品へのオイルフィニッシュは可能な限りオイルを浸透させるのが良いとされています。 楽器の場合には音に悪影響のない塗装をする必要があります。 楽器へのオイルフィニッシュはオイルの浸透度合いを極力抑えることが重要となります。一般の木材製品であれば、浸透を促進させることでより強固な塗装になる、という見解が一般的です。楽器の場合は亜麻仁油の過度な浸透により乾燥が遅れ、音の透明感、明瞭度が低下します。可能な限り乾燥時間が短いオイルを選択し、少量を塗ったらすぐに拭き取り、オイルの浸透を表面で抑えることがポイントと言えます。

① 亜麻仁油は表面に塗膜が出来ないので、塗膜のできるラッカーやシェラックなどと 比較すると当然はがれるものがありません。塗膜を作る塗装の場合は、 塗膜の厚さや仕上がり具合、さらに打痕や経年変化等によっては、はがれ やクラックが生ずる場合があります。

② 亜麻仁油は塗膜がない分、木材の風合いがストレートに出ます。ナチュラルでトラディショナルな風合いを好む人には向いた塗装法と言えます。又、オイルが浸透する関係上、木材の深みが出て塗膜の出来る 塗装にはない自然な仕上がりになります。

③ 亜麻仁油での塗布回数は平均で10回くらいから深みと艶が増します。オイルフィニッシュ の特性を最大限に出す為には、最低10回は重ね塗りをするのが望ましい と思われます。但し、木材の風合いそのものを重視したい場合は、塗る回数 を減らした方がより自然な仕上がりになります。

④ 塗膜がない分「音」の振動が良好になります。(ラッカー仕上げのギター を再塗装してオイル仕上げをしたところ、音の抜けが向上しました) 塗膜が出来るということは、音が多少なりとも制限されるとも言えますが オイルフィニッシュでは制限が減少しますので、音質面では向上が期待 されます。

⑤ 植物性天然油を使用しているので、シェラックと同様に楽器や 人体に悪影響はほとんどありません。毒性もほとんどないので、安全・安心な塗装法と言えます。

⑥ 塗りの技術はラッカーやシェラック等と比較すると簡単です。但し木材 へのオイルの浸透を最少限に抑えるため、塗布後はす早くふき取る 必要があります。ベタベタに塗ったまま放置すると、必要以上にオイルが 木材に浸透し、オイルが完全に乾くまでにかなりの時間を要し、音にも悪影響が出ます。

⑦ 塗り重ねが基本で、仕上がり具合をゆっくりと経過・観察できます。 シェラックによるタンポ塗りと同様、一回一回塗る毎に少しづづ仕上がり が変わってゆきます。1日に朝と晩の2回塗るのを基本にしている製作家も いらっしゃいます。

⑧ ラッカーのような危険物対策が不要で安全・安心。特殊な設備も不要です。一部シンナーを使う場合もありますが、ラッカーの場合の吹き付けよりは 僅かな影響で済みます。スプレーガンによる吹き付けは部屋中がラッカーの臭いで充満します。

⑨ マホガニー、ウオールナット、コア、ローズウッドなどの色の濃い又は赤系の 広葉樹には木目が強調され外観に高級感が出ます。オイルの性質により、 広葉樹に塗装した場合は木目が深まり強調される傾向があります。この 特徴はラッカーやシェラックよりも顕著と思われます。

⑩ スプルースなどの針葉樹・白木系の場合は「黄変」があり、色合いの好みが 分かれます。木目の「白さ」を重視したい方は、白木系の木材にオイルを 使用するのは不適かもしれません。スプルース等にオイルを塗ると黄色が 目立ってきて多少油っぽい感じになります。トラディショナルな風合いを好む 人には良いかもしれません。

⑪ 塗膜がない分、「外部の保護」という点からはラッカーやシェラックよりも弱く なります。「保護」を重視したい場合はオイルフィニッニュよりラッカーや シェラックを使った方が良いかもしれません。但し、塗膜のある塗装でもキズ が塗面に付くことは避けられません。塗膜にキズが付くか、木材にキズが 付くかの違いをどう考えるかということになります。結局はどちらであっても キズ等が付くことには変わりないと考えれば、大きな欠点とは言えないかも しれません。

⑫ 亜麻仁油が深く木材に浸透し過ぎると乾燥が困難になる場合があり、音質にも 影響するので注意が必要です。塗ったままべとべと状態での放置は絶対に 避け、す早くふき取ります。浸透し過ぎた亜麻仁油の乾燥はとても遅く、完全に 乾くまでは、サウンドはシャープさ、クリアーさを失います。モコモコして 曇った音になりますので注意が必要です。

⑬ 広葉樹で導管がある場合、目止めをするかしないかは好みの問題となります。 目止めをすると表面に油脂膜が付いたような仕上がりになり、油特有の テカテカ感が強調されてきます。目止めをしなければ、オイルフィニッシュ本来の木材内部に向かって深みが増し、テカテカ感は抑えられます。どちらも それなりの趣きがありますので、一度試されるのが良いと思います。

⑭ 生地調整は妥協を許さずにきっちりやることが重要です。塗膜がないので その分表面のごまかしが利きません。ギターを組み立てる前にそれぞれの板を スクレーパーで研磨し、組み立ててからは100番くらいから番手を1つづつ上げて280番までじっくりとサンディングし、さらに無水アルコール等で表面を滑らかに します。塗装中も必要に応じてサンディング、けばを抑えるためにスチールウール 等で軽くサンディングします。

⑮ 音については亜麻仁油が浸透し過ぎるとシャープさが欠け、曇ったサウンドに なります。オイルは少量づつ使用し、塗ったらすぐに拭き取ることが重要です。 楽器としてのオイルフィニッシュはオイルの浸透を最小限に止めることが最大のポイントと言えます。乾燥後は特に低音が強調され深い低音が出るようになり ます。これはこの塗装の音響的特長と言えます。


   塗装法について ( 一般用 )

オイルフィニッシュの実際の方法ですが、代表的乾性油”亜麻仁油”を使用する場合を説明しますが、大切なポイントは次の3つです。

・充分に塗布し、浸透させる。( 楽器の場合は表面に少量塗布 )
・20~30分後、過剰な油をしっかり拭き取る。( 楽器の場合はすぐにふき取る )
(20~30分の時間は油が導管中の空気と入れ替わるのに必要な時間)
・充分に乾燥させる。

塗布方法の工夫として、古いTシャツなどの毛羽立ちのないボロ布やスポンジで塗る、小物は油に漬け込んでもよい(ドブヅケ)、浸透性をよくするため、亜麻仁油は小さな泡ができるぐらいに加熱して塗る、加熱する代わりに、溶剤で粘度を下げる。(溶剤蒸気に注意。テレピン油、ペイントうすめ液等)できれば加熱塗布がいいようです。溶剤蒸気の危険性がなく、また油が薄くならない理由からです。

【拭き取り】

・拭き取ったところがわかりにくいので、順序を決めるなどしてもれなく拭き取る。
・布がボトボトになったら取り替える。
・導管から油が噴き出して来る場合はその後も拭き取りを続行。

濡れた状態で研磨をする方法もあります。この方法は木のカスと乾性油のミックスを導管につめてシーラーのようにしてしまうので、この方法で仕上げるとツルツルにはなりますが、表面が樹脂っぽくなり、クリアラッカー仕上げに近くなるように感じます。通常は1回目のオイルがよく乾いてから400番~600番で再研磨し、よくホコリをとってから2回目の塗布をします。塗布回数は4回ぐらいで、最後にワックスで磨くと光沢が素晴らしくなります。

【耐水性が要求される時】

「スパーワニス」は桐油を30%含み、樹脂としてロジンエステル(松脂の樹脂成分のエステル)を含む、ヨットのスパーに塗られた油ワニスです。テーブルトップに亜麻仁油とスパーワニスとテレピン油を混ぜて塗っている例があります。又、薄めたウレタンニスを塗り込み、最後にタンポ塗りすれば、テカテカは防げますが、もっとオイルフィニッシュ風にするには、ウレタンニス:煮亜麻仁油:溶剤=3:2:2の割合に混ぜて塗り込むのも良いでしょう。

【着色したいとき】

あまり濃い着色は無理ですが、オイルステインを少量油に混ぜればOKです。本来は「油性染料」を混入すべきですが、少量の入手は困難ですし、完全な撹拌がむつかしそうです。