ナット溝加工専用ヤスリです。溝の加工は細心の注意が必要ですが、この専用ヤスリを使って理想の溝に仕上げることが可能です。「溝の幅」は弦の太さ(ゲージ)より少し大きめが良いでしょう。
■ 用途 : ナット溝加工専用
■ 材質 : スチール
■ 厚み : 0.056インチ(1.42mm)
■ サイズ : 150mm(長さ)x12mm(巾)
ナットの交換方法
まずは弦を外し、交換するナット周りにマスキングテープを貼ります。これでナット周りに傷が付くのを最小限防ぎます。 外すナットはのちに溝間隔や形状などを参考にする場合がありますので、取り外した後も捨てないで保管しておきます。
横幅6cm x 縦2cm x 厚み1cm程度の「当て木」を用意し、キズが付かない「プラスチックハンマー」で指板側からヘッド方向に向かって画像のように叩きます。注意点は、いきなり強く叩き過ぎるとナットに接しているヘッドの付板部分が剥がれてしまいます。はじめは軽く叩いて剥がれ具合を確認しながら、ナットが外れるまで叩き方を除々に強くしてゆきます。
ナットが外れたら、次はナット取付け溝をクリーニングします。外したばかりの状態では接着剤が付き、底面や指板側が平らになっていません。これをヤスリや小型ノミなどで接着剤を払い、面を平らにしておきます。尚、指板部分は接着剤のみを注意深く削り取り、指板自体は絶対に削らないようにします。指板自体を削ってしまうと、弦長が狂ってしまいますので注意します。
次にナット幅の調整を行います。最終的に仕上げるナット幅より2mm程長くカットしておきます。例えばギターのナット幅が43mmであれば、この時点ではナット幅45mmでカットし最終的に微調整を行います。画像のように小型の「万力」にナットを縦長に固定します。
カットするナット幅が決まったら、細いノコギリでゆっくりカットしてゆきます。牛骨は堅い素材ですので、切削面が少なくなる様、縦に長い状態にセットします。
ナット幅をラフカットしたら、次にカーブ加工を行います。まずヘッド側部分のラウンドを大まかに描きます。(画像の傾斜部分) 一般的にラウンドが緩やかですと太くて強い音、傾斜がきついとシャープで繊細な音に近づきますので、好みでラウンド具合を決めます。ナットのラウンド加工も「万力」に固定し「平ヤスリ」で行います。この「平ヤスリ」はフレットのすり合わせにも使用できる便利なヤスリです。基本ツールとして確保されることをおすすめします。
次は弦溝の位置を決めます。弦溝の位置は、まず両端の1弦と6弦の位置を決めてから、2~4弦の位置を決めます。1弦の位置は外側にし過ぎると、弦を押さえた時にフレットから外れやすくなり、演奏に影響しますので、6弦の位置より内側に位置決めします。1弦と6弦の位置が決まったら、2~5弦の位置を決めます。例えば43mのナット幅であれば、7mm間隔でマークしておき、弦の太さ分を微調整します。演奏性を考慮すれば、弦の間隔が等間隔になるように位置決めするのが良いですが、弦の太さ違いを考慮する必要が出てきます。7mm間隔均等にマークしてから、太い4~6弦の太さも考慮し0.5mm~1.0mmの調整を行います。微調整をせず7mm等間隔のマーキングで溝を掘ると、太い弦側の弦間隔が縮まってしまいます。
又、弦溝は指板に並行ではなく、ヤスリをヘッド側に少し向け深めに掘ります。弦がストリングポスト向けて下がる角度より、少しきつめに角度を付けて掘ります。溝の角度の付け方でも音が変わりますので注意しましょう。「弦と溝がどうのような状態で接しているか」ということが音質を左右します。弦と溝が「平面」で接するとノイジ―で太く強い音になりますし、「点」で接するとクリアーで繊細・シャープな音になります。
又、中央に位置する3弦と4弦は溝の方向を「ストリングポスト」に合わせます。下の画像のように溝の方向を少し外側に向けます。ペグのストリングポストに向けて溝を掘ると、弦とナットの摩擦が軽減され、チューニングが滑らかになります。
次に弦溝の深さは弦高に関わる重要なポイントです。適度な高さになるよう慎重に作業します。目安として、カッターの刃などを2フレットとナットに接するようにセットし、1フレットとの隙間がどれくらいあるかを見ます。この間隔が各弦で均一になるように弦溝の深さを調整します。1弦~3弦は深め」「4弦~6弦は浅め」で弦高がほぼ均一になるはずです。ここでも「弦の太さ違い」が弦高に影響します。弦高は各弦均一が基本ですが、好みで1弦~3弦を4弦~6弦より僅かに下げる調整法もあります。
ナットの頭は指板のアール (カーブ) に合わせて成形します。
今までのところで、ほぼ成形は完了します。ポイントをまとめますと、
□ ナットラウンド形状 ( 音質に影響 )
□ ナット溝間隔 ( 演奏性に影響 )
□ ナット溝角度 ( 音質に影響 )
□ ナット溝深さ ( 演奏性に影響 )
以上に注意しながらお好みのサウンドに近づけるよう調整しましょう。弦溝を掘る際には専用ヤスリが便利です。弦の太さに応じて使い分け出来るので安心の専用ヤスリです。ナットの成形が終了したら、ナットを接着剤なしで仮セットし、弦を張り状態を確認します。弦を張った時点で不具合があれば再調整します。調整が全て完了したらナット底面・横面に3滴づつ程度「瞬間接着剤」を付けて固定します。
ナットの成形ついて
ナットの成形手順をまとめてみます。まずナット幅をネックの幅に合わせカットします。ナット を切る時はバイスで固定し、出来る限り薄い刃のノコを使いま す。まず1弦と6弦の位置を端から1.5mm~3mmの間で決めます。他の弦については例えば43mmのナット幅であれば、平均7mm間隔で定規を使って印を付けます。ここでの注意点は弦の太 さの分だけ6~4弦側は間隔が狭くなりますので微調整します。慣れるまでは既製のナットの溝をよ く観察しながら位置決めするのも良いでしょう。シェイクハンド奏法をよく使う人は6弦 側に溝の位置を僅かに外にずらすのも1つの方法です。ある程度自分の演奏スタイル に合わせて、微調整するのが自作ギターの醍醐味の1つであります。基本は等間 隔に溝を掘ることですが、多少の変更は構いません。溝の向きは平行のもあり ますが、溝からペグの方向に合わせて僅かに外側に向けます。これを行うには 一端弦を張ってから調整する方がやりやすいでしょう。
溝の深さは1~3弦は弦全 体が隠れるくらい、4~6弦は3分の2ぐらい隠れる程度を目安とします。 これで弦高がほぼ均等になるでしょう。ナットのヘッド側は丸くラウンドさせて、弦の当たる接点を出来る限り少なくします。 こうすることによってノイズが減少しクリアーなサウンドが得られます。ナットの最終調整は弦を張ってから行います。 ナットの接着 は今後も取り替えることを考慮して、瞬間接着剤を使用します。下側とフィンガーボード側 に各3滴程度を付けてすぐ接着します。
ナット素材について
ナットの素材は安価なものとしてはプラスチックがありますが、中級以上のギターには牛骨材が使われ、さらに最高級のギターには象牙材が使われています。最近ではABSやブラス(真鍮)、カーボン、セラミックなどの新素材も使われるようになっています。「 牛骨」が最も弦楽器に適しているという意見もあれば、ギターを作った人々の身近にあった素材がたまたま牛骨であっただけで、 素材として最適とは限らないという意見もあります。とは言っても、牛骨は古来より永く使われ続けていることには間違いなく、ナットの基準となる素材としての評価は十分あります。言わば「ナットの定番」としてまずはその特性を十分理解し、さらに他の素材を試してゆくというのが良いと思われます。又、象牙材は最高品質の材として広く知られ、音質的にもギターに非常に適した材として人気があります。ギターを最高の状態に近づけるグレードアップには、この象牙材を使用することが近道と言えます。
一般的に弦楽器が音を奏でるには、弦の振動が必要です。弦を振動させるには、弦を張り、その両端に楽器本体から弦を浮かせるものが必要となります。ナットは、指板(フィンガーボード)の上の端で、弦を乗せる台として使われるパーツです。 又、サドルは、ボディの下部のブリッジ側で、これもまた弦を乗せる台として使われます。 これらのパーツは直接弦に接するので、音色にかなりの影響を及ぼします。硬めの素材を使えばサステインが向上しますが音の広がりは狭くなります。 反対に柔らかめの素材では、甘いトーンとなり、音の広がりが向上しますがサステインは抑えられる傾向となります。
ナットの形状・素材いろいろ